Only You
「琴美は好きな花を部屋に飾ってさ、料理して。そうやって笑顔でいてくれるのが一番いいな。それにキーボードも弾けるって言ってたよね。あれもいいなあ……そういう自分の趣味を楽しめばいいよ。そういう琴美を見てるのが僕の幸せだから」

 全く嘘でもなくて、彼はこういう私でいいって言う。 
 だから私は肩に力を入れないで自分が好きな事だけやって、綾人の優しさに甘えている。

 夜はかっちり抱きしめられて、寝息をたて始めていても彼は少しも私を離してくれない。
 そんな彼を見てると「本当は寂しかったのは綾人も同じなんじゃないのかな」って思って、愛しさがこみあげる。
 ラフな長袖のTシャツを着て寝る綾人。
 そのシャツの香りが私を幸せな夢へと誘い込む。

 今まで見ていた悲しい夢をぱったり見なくなった。
 「待って!行かないで!!」って、誰を呼んでたのかな・・・って今は思い出せない。
 あんなに悲しい朝ばかりだったのに、今は目が覚めたとたんに「あ、起きちゃった。
 「もっと可愛い寝顔見せてよ」なんて、先に起きてた綾人にキスされる。

 こんな甘い朝があったのか……。

 お互いの嫌な場所でも見えてしまうんじゃないかと心配した事が、今のところ全く起きないのが不思議だった。
 きっと綾人が心に余裕を持ってくれているせいなんじゃないかな。
 疲れて帰って来ても、「琴美の顔見たら元気戻った」って笑顔で夕飯を食べる。
 仕事の話なんか絶対しないで、道端で見た野良猫の話しとか、夕焼けが綺麗過ぎてしばらく眺めてたとか……そういう話しばかりする。
 だから私も職場での嫌な事を忘れてしまう。
 彼の見た野良猫がちゃんと餌を食べてるかなあとか、その夕焼けを一緒に見たかったなあ……なんてそんな事を考えて心がほのぼのしてくる。
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