Only You
 本当に何気なく歌ってるんだけど、誰もが持ってる悲しみをこの人が一緒に背負ってくれているような気分になる。
 ライブとかは行った事なかったけど、私と同じように彼に励まされた人がいたに違いない。

「僕の事歌ってるの……これ」

 布団に入りながら綾人は目をつむってその曲を聴いていた。

「そう思う?多分皆がそう思ってるんじゃないかな。抱えてる悩みをこの人の曲で少しだけ分散させて……救われてるんじゃないかな」
「……そか」

 綾人は男だから涙は流さないって言った。
 でも、きっと泣きたい日はいつでもあるに違いない。
 だから共感するような事を言ったんだろうね。

 私はまた布団にもぐり直して、そっと後ろから彼の体を抱きかかえた。
 私がいるだけで少しはあなたの癒しになってるかな。 
 毎日夜遅くまで必死で働くあなたの後姿を、私は応援してるんだよ。
 気付いてくれてるかな。

 誰でもあなたの姿には見惚れるけど、私はあなたの心が好き。

 決して悲しみを溜め込まないで、暗い気持ちを歌に乗せてしまうような綾人。

「琴美」
「なに?」

 綾人がクルリと体をひねってこっちを見た。
 すっかり起きてたみたいで、目はパッチリと開いていた。

「君の心は……僕のものだよね」

 ちょっと乱れた髪が目にかかった状態で、彼は私を真剣に見ている。
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