Only You
 ここで辞める事も可能だったけど、それでは私は仕事から逃げることになってしまう。
 きっと綾人なら、エルなら、自分の可能性に挑戦してみたらって言うに違いない。
 パートナーが長坂さんだっていう事は多少気になる事なんだって想像がつくけど、それとビジネスは別だって分かってくれる。
 私はそう信じて異動の話を飲む事にした。


「仙台!?長坂と?」

 綾人の驚きようは、ちょっと意外を通り越していた。
 仙台への距離も驚いたみたいだし、私が営業として長坂さんと組むのも相当衝撃的だったみたいだ。

「うん……。綾人なら応援してくれるかと思ったんだけど……」

 私が落ち込んだのを見て、綾人もちょっと落ち着くようにしばらく沈黙した。

 見ていたテレビを消したから、部屋はシンとなった。
 アツアツになっていたコーヒーも冷めきってしまっている。
 聞こえるのは時計の秒針が動く微かな音だけになって、私は呼吸が浅くなるのを感じた。
 綾人が怒ってる。
 今までそういう感情はほとんど見せてこなかったのに、私の判断にちょっと納得いかない様子だ。
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