Only You
「……」

 画面を見ながら、しばらく私は返事を打てずに考えてしまった。

 何も語らなかった彼が唐突に私に会いたいと言ってきた。
 正直、彼が女性なら問題なく会えたと思う。
 でも……もし会って唯一の心の友達まで失ったら、私はどうなるんだろう。
 寂しい生活にほんのりついていた灯火がフッと消えてしまうんじゃないだろうか。

 独りの生活は慣れてる。
 でも、エルとの数年にわたるメール交換は私の心を大きく支えてくれていた。

 会うべき?

 やめておいて、一生彼とはメール友達でいるべき?

 迷ってしまう。
 彼はどんな私でも受け入れられるって言ってる。
 それは本当なのかな……。
 メールだけの私を見て何か別の妄想が働いてたりしないのかな。
 余計な不安ばかりがよぎって、なかなか彼に会う決心がつかない。

 結局このメールにはそつのない内容を返して、特に会おうとかそういう文面は入れなかった。彼もきっと私の気持ちを尊重してくれるはずだ。


 次の日、いつも通りのオフィス。
 ざわめいていて落ち着かない中、それぞれの準備を整えて席についたり電話に出たり……。
 9時を回る頃、一度出社した営業マンが次々に外に出かけていく。
 その後姿に「言ってらっしゃい」って声をかけるのが私達の役目。
 まるで奥さんみたいだなーなんて思ったりして。
 そう強く意識するのは、やっぱり笹嶋さんが出かける時だ。

「じゃ、遠藤さん後よろしく頼むね」

 私を直接呼んで出かけてしまったから、他の女性は声をかけづらくなったみたいで、何となく睨まれた。
 後よろしく……って何の事だろうか。
 職場をよろしくって事?
 あまり深い意味はなさそうだ。
 直接言葉をかけてもらったのは嬉しいけど、周りの視線が痛いから、できれば無視してくれたほうが気が楽だ。
 こう思ってしまうぐらい、私は別に彼を特別自分と親しい関係に持ち込もうなんて夢にも思っていない。

 なのに、早速化粧室で嫌味を言われた。
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