Only You
 ただ、叶さんはさらに気になる話を続けた。

「遠恋ってなかなかシビアですよ。どれだけ思いあってても、肌を触れる機会が減って、ダイレクトに愛情を感じられない日々が続くと、よっぽど固くなったカップルですら危うい場合がありますからね」

 せわしなく書類を折りたたむ作業を止めずに、叶さんは真面目な顔でそう言った。
 それは言われなくても分かってる事だった。
 たまに会う休日がやけに短く感じたし、平日はお互い疲れてるから携帯メールだけで挨拶する程度だ。
 寂しくないと言ったらまるっきり嘘だし、毎日私は独りのアパートに帰るのが嫌でたまらない。
 仙台に来た事が原因で綾人との関係がおかしくなるなんて、考えたくもない事だった。

「でも離れてるからこそ相手を大事に思えるって事もあるんじゃないですか?」

 私は苦し紛れにそんなありきたりなセリフを口にした。
 言ってみて自分でも何だかそのセリフが嘘っぽいような、軽すぎるような気がした。

「そんなの表向きの綺麗ごとですよ。距離が近い方が心が通いやすいのが人間ですよ?あんまり自分のいい子な部分を信用しきらない方がいいですよ」

 随分キツイ事を言ってくれるなあと思ったけど、何だかそれに反論する事も出来なくて、私は黙って彼女の言葉を聞いていた。

「私、知ってますよ。長坂さんが遠藤さんの事気に入ってて、仙台まで引っ張って来たって。どうなんです?彼に少しは心動いたりしませんか?」

 叶さんの言葉は全く遠慮が無くて、本当に閉口してしまう。
 ここで私が「そうですね」なんて言うはずも無いのを分かっていて、わざと聞く意味も分からない。
 でも事実、私に関する噂は社内の大体の人は知ってるみたいで、長坂さんはわざと社内にいる時は親しげに声をかけてきたりしない。
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