不遜な蜜月

(本当に、ひとりで産むつもりなのか?)


実感はないが、お腹にいる子の父親は自分だ。

産むと言われると、無視できない。


だが、下ろせと言って、また彼女のあんな傷ついたような顔は見たくはない。

だからといって、結婚なんて―――。


考えても意味はないが、あの夜に戻れたら、と思ってしまう。

あの夜に戻れたなら、やり直すのに。


(いや・・・・・・やり直しても、同じことをしそうだな、俺は)


不思議なことに、あの夜、彼女を抱いたことを後悔してはいない。

失態だとは思うが。


後悔に苛まれているのは、傷つけてしまった己の失言だ。


「癒してくれる女性、か・・・・・・」


あの夜、自分は癒されたのだろうか?


エレベーターが開き、理人は思考を中断した。

仕事に私情を持ち込むのは、未熟者の証拠だ。


気持ちを入れ替えて、理人は一歩、踏み出した。


< 57 / 355 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop