家元の寵愛≪壱≫


「隼斗」

「ん?」

「…………別居したらどうだ?」

「ッ?!……………別……居?」

「あぁ、今のお前達を見ていられん。言いたい事も言わず、互いに距離を置いて。見て見ぬ振りにも限界が来たんじゃないのか?」

「ッ!!」


親父は盛大な溜息を零し、腰を上げた。


「『家元』である前に1人の『男』だが、お前には逃れられない責任がある。茶室に足を踏み入れたのなら、どんな理由があろうとも、私情を挟むな…………いいな?」

「………はい」


親父は厳しい面持ちで茶室を後にした。



俺は親父の言葉にグッと唇を噛み締めた。

俺の至らなさで稽古すらして貰えなかった。



親父の言葉は至極当然の事だ。


俺には責任がある。

決して逃れる事は出来ない責務が。



親父が居なくなった茶室で俺は気持ちの整理をした。


薄らと外が明るくなったのを感じて、

ゆのがいる離れへと向かった。




少しやつれた感じがある彼女の頬に指を滑らせ、

ジンと目頭が熱くなる。


………………ごめん、ゆの。


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