家元の寵愛≪壱≫


はぁ~~……。


隼斗さんにもお弟子さん達にも申し訳ない。

毎日毎日、行き帰りの送迎を。

貴重な時間を私の為に費やして。

本当に心から申し訳なく思ってしまう。


藤堂家から大学まで電車で3駅。

駅までの徒歩を考えても1時間とかからない。


私は毎日、

『1人で行きます』って言ってるのに。



門前で隼斗さんの車が見えなくなるまでお見送りをして、

私は自分の稽古用に着替える為に離れへ。


私服から着物へ着替え、母屋へと向かう。



茶道界にとって

夏はそれほど大きな行事は無く、

私はお義母様と共にお礼状を書いたり、

着物の手入れをしたり…。

秋の茶会へ向けて、少しずつ準備をする。



お義母様がお礼状を書き終えたのを見計らって、


「あの、お義母様…」

「ん?……何?」


お義母様は便箋と共に文香を封筒に入れている。


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