桜麗の社の影狐
狐火編 序譚
風に、声が聞こえる。
ああ、これは誰の声だろう。
男のひとの声だ。
優しそうで、どこか哀しげな声。
知らない声の筈なのに、何故かとても懐かしく感じる。
遠くから、祭囃子が聞こえる。
鈴や太鼓の音に混じり、歌が聞こえる。
“あかねのねいろのそのむこう” “あかねのとりいのそのむこう” “せかいのあわいのゆめうつつ”
この歌・・・何の歌だろう・・・? 聞いたことが、ある気がする。

遠くに、何かが見える。
あれは・・・男の人・・・・?
濃い緑色をした着物を着て、顔には狐の面をつけている。
さっきの声の人だろうか。
じっとその人を見ていると、その人も私に気付いた様で、こちらの方に歩いてくる。
カラン、カラン、と乾いた下駄の音が小気味良い。
気が付くと、男の人は私の目の前にいた。
そして、彼はつけていた狐の面を外してこう言った 。
「帰っておいで」
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