恋愛短編集
そんな声に麻幸は苦笑しつつ、楽しそうな二人を眺めていた。

「えっと、西1は……」

姫佳は歩きながら、何かを確認していた。

「あった!穂佑実は黄昏時さんの新刊は?」

「欲しい!」

「オッケイ」

姫佳は列に入って、すぐに戻ってきた。

「良かった~、新刊、あと少しで完売だよ!さて、次は」

いくつか西館を周り、企業ブースに行く途中、麻幸の携帯が震えた。

「はい」

麻幸が振り返ると、足が止まった。

「麻幸さん?」

姫佳が振り返ると、笑顔の全身黒ばかりの男性と、困惑した表情の男性がいる。

「ここは携帯が全然繋がらないね。どうなっているのかな」

麻幸は、ゴクリと唾を飲む。

「葉大さ……ん」

「姫佳、邑理は知ってるんだよね?」

男性は目を細め、携帯を姫佳に向けた。

カシャッとシャッターを切る音が微かに聞こえ、男性……葉大は手早く携帯のボタンを押す。

「穂佑実ちゃんはね、弥一から伝言預かってるよ。初めての年越しだから、本家で待ってるって。……ここにいるって、知らないから、僕は何も言わないよ?」

姫佳は、唸った。

「どうして私だけなんですか?」

葉大は口元を緩めた。

「発起人はきちんと責任をとるべきだからね。麻幸は、あくまでも仕事だから?」

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