恋愛短編集
『え~、今日もキャンセル?』

電話の向こうで、高い声が叫ぶ。

わたしは溜め息を軽く吐く。

「仕方ないよ。ヤツが、出張から帰ってくるってさっき電話があって……」

わたしは、ウォークインクローゼットの前で、携帯を片手に洋服を眺めていた。

『はぁ?確か、一週間とかいわなかった?』

「うん。でも、仕事がスムーズに済んだから、帰ってくるって。だから、帰りに待ち合わせして、美味しいものでもって」

ペパーミントのワンピースを手にして、ベッドに投げた。

『それって……無理矢理じゃないの?』

「でしょうね。邑理さんに聞けばイッパツじゃないの?」

ちなみに、邑理さんとは電話相手のご主人で、色々と関わりのある人。

『まぁ、そうだろうけど。仕方ないから、今回は諦めてあげる』

「悪いね。そっちも自由がきかないのに」

『まぁ……こっちはまだ、ね。じゃぁ、また電話するから』

「オッケイ」

わたしは携帯電話のボタンを押して、ベッドの上に投げる。

携帯は弧を描いて、ワンピースの近くに転がった。

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