Fragile~思い出に変わるまで〜
涙を浮かべながら俺を見つめる彼女を、じっと見つめ返す。


その表情は真剣で、それが冗談じゃないとわかる。


俺はゴクリと唾を呑み込んで、彼女から目を離さないまま、小さく首を横に振った。


それは出来ないという意味をこめて……


その瞬間、彼女の手にキュッと力が入る。


「お願い……」


彼女の顔が近づいてくる。


少し近づけば触れてしまうほどの距離に理性が揺らぐ。


彼女の息づかいを間近に感じて、もう何も考えられなかった。


さとみのことも……


これがいけない行為だということも……


しっかりと握りしめてくる藤森の手を握り返しながら、俺は優しくそっと唇を重ねた。


触れ合うだけのつもりだったのに、愛おしさが止まらなくなる。


俺は理性をどこかに置き忘れて、握っていた手を乱暴に離し、その手で藤森の後頭部を押さえつけた。


そしてより深く貪るように、薄く開いた彼女の唇を味わう。


このとき俺の頭にはもう、さとみの顔が浮かぶことはなかった。


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