Fragile~思い出に変わるまで〜



まだ、暑いなぁ……


職場を出た瞬間、もう夕方だというのに肌が汗ばんでくる。


季節はもう初夏を迎えていた。


鞄からハンカチを取り出し、額の汗を拭う。


つわりもおさまり安定期に入ったものの、体重は相変わらずそれほど増えていない。


そのおかげで誰にも妊娠していることを気づかれてはいなかった。


あれから2ヶ月――


子供が出来たことを、職場にはもちろん健にもまだ知らせていない。


少しだけ膨らんだお腹をさすりながら、私はまだ迷っていた。


あれから健は特に変わった様子もなく、相変わらず忙しく働いている。


私に対してもいつもと態度が変わることはなかったけれど、あれから一度も私に触れては来なかった。


< 256 / 589 >

この作品をシェア

pagetop