Fragile~思い出に変わるまで〜
今日だけは、私の願いを聞いてほしい。


そんな思いをこめて、涙に濡れた顔で健を見上げた。


そこには困ったような、何か考え込んでいるような、そんな複雑な表情を浮かべる健の姿があった。


やっぱり……私より藤森さんの方が大事なんだ……


急に冷静になっていく自分がいる。


健から体を離し、俯きながら手のひらで涙を拭う。


私の願いが届かなかった瞬間だった。


「藤森がどうとかじゃないんだ!

ひなの様子が心配なだけで……

あいつはパニクってるし、俺が行ってやらないと……

さとみならわかってくれるよな?」


ああ…この人は……


私がいつでも理解ある妻だと思ってる。


『理解ある妻ってことは、ときには都合のいい妻ってことになるんだよ』


美咲に言われた言葉が頭の中で繰り返し流れて、そうなってしまった自分を深く後悔した。


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