Fragile~思い出に変わるまで〜
「良かったな……

俺との時は子供に恵まれなかったけど……今回は出来たみたいだし……

さとみが幸せそうで俺も嬉しいよ」


それが精一杯だった。


それでもなんとか祝福したつもりだ。


なのに、さとみはなぜか俯いて、何も答えることなく動かないでいる。


――どうしたんだろう?


何か俺の言い方がおかしかったんだろうか?


そう思って声をかけようとした時、彼女がゆっくりと顔を上げた。


その顔はにっこりと俺に笑いかけている。


「ありがとう

うん……私、今幸せだよ?
健太も元気に育ってくれて可愛いしね?」


俺はそうか……と呟くことしか出来なかった。


人の幸せを願うことが、こんなにも難しいだなんて……


幸せだというさとみを見つめながら、それを与えたのが自分ではないことを思い知る。


そして今の旦那がさとみを幸せにしているんだという事実に嫉妬していた。


――俺はなんてちっぽけなんだろう?


あの時……


さとみが俺から離れていった時……


彼女は俺の幸せだけを願ってくれていた。


それなのに今の俺はどうだ?


自分の情けなさに呆れながら、さとみの幸せそうな顔をただ見ていることしか出来なかった。


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