彼はクールフェイス☆


「……ごめん、帰るね」

「………」



声を掛けても手を離す気配はない。
困って見上げると、目が合う。





ドキン………





今まで見たことない表情、そんな目で見つめられたら…きゅっと胸が苦しくて、同時に何かが込み上げてくる…なんかとっても切ないよ。





「小池…君?」




どうしよ。とってもヒナタって呼びたい。私の中に欲が出る。
でも何でもない《ただの》クラスメートでしかないのに、それは無理…って蓋をするしかなかった。


ポン!



ふと、私から目を逸らした彼は、空いている方の手で黒い傘を開いた。



「……送る」

「え…でも私んち、駅と逆だよ?」



確か小池君は電車通学。真逆の方向の私を送ったら、ゆうに二時間はタイムロス。ただでさえ、薄暗くなってきたのに、帰る頃には真っ暗じゃん。申し訳ないよ…



「私なら平気だよ。家も歩いて行ける距離だし…」

「いいから……この前のお礼」



ビックリ。
会話が成立してる…初めて会話が成立してるよぉ~。嬉しいっ!


すっと差し出される傘。私の様子を伺ってる。
一緒に帰ってもいいんだ。並んで、しかも相合い傘で……



「じゃあ…お言葉に甘えちゃおうかな」

「ん……」



傘が差し掛けられて、二人並んでゆっくり歩き出した。


肩が触れそうな位近い。
男の子との初めての相合い傘が、好きな人なんて…超ラッキー☆
滅多にない運のいい出来事に、嬉しくてついつい頬が緩む。
見上げると、真っすぐ正面を向いた小池君の端正な横顔。
私の歩幅に合わせて、ゆっくり歩いてくれてる。

憂鬱な雨降りだったはずなのに、雨脚の強さも、足元の跳ねっ返りだって全然気にならない。



隣にいるだけでドキドキする。そのすぐ傍にある横顔を見るだけで、胸がキュン♪とする。


会話なんかなくても、二人だけのゆっくりとした時間が、今はとても嬉しかったから―――――
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