赤い月 参
彼は席を立った。
カウンターに並んで座っていた友人だった男に背を向ける。
「殴るなり、チクるなり、好きにすりゃイイじゃん。
言ったろ? 断る。」
ドアノブに手をかけたところで、背後から狂ったような笑い声が聞こえた。
「俺がダチに手ぇ出すワケねぇじゃねーかよぉぉ。
でも…
オメェこの前、結構イイ女連れてたよなぁぁぁ?」
ヒャーハハハハハハハハ!!
耳を塞ぎたくなる声を、古びたドアが遮断する。
連れ戻したかった。
だが、引きずり込まれそうだ。