赤い月 参

立ち上がってスツールを蹴り飛ばし、奴が近づいて来る。
馴れ馴れしく肩を抱き、指で頬をつついた。

黒髪?まさかうさぎ?と、祥子が血相を変える。

大丈夫だよ、祥子。
鬼神サンは帰したから。
今から祥子も、家に帰してあげるから。

大吾は肩に回された手をほどいて床に手を着き、頭を下げた。


「頼む、祥子を返して。
俺がずっとおまえといてやるから。
彼女たちには手を出さないでくれ。」


口を尖らせ、脱色しすぎてパサパサになった髪を指で捩っていた奴が、溜め息を吐いた。


「わかってないなー、大吾は。
おまえ、俺と一緒にいて仕事手伝うダケとか思ってンの?」


奴が目で合図を送ると、男たちが立ち上がった。
抵抗も空しく鉄パイプで背を殴られ、二人がかりで乱暴に押さえつけられる。


「おまえは俺になるンだよ。
一緒に堕ちていくンだよ。
まずは、おまえを壊さなきゃなぁぁ?」

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