お姫様の作り方
ドクンドクンと脈打つ音がうるさいことは分かっている。鼓動に応じて高まる熱も行き場を失っている。指先も顔も熱い。
あたしはその熱さを誤魔化すためにパンを頬張った。


「…あまり急いで食べるのは危ないですよ。」

「はいじょうふ!」

「ふふっ、言えてないです、雪姫さん。」


あまりにも楽しそうに笑う洸を視界に入れると、またしても鼓動が早まった。


「やっぱり食べている雪姫さんが一番可愛いかもしれませんね。」

「…別に可愛くない。」

「食べている時の自分は嫌いですか?」

「別に嫌いじゃない。でも…。」

「好きじゃないんですね、見せることは。」


言い淀んだあたしの、想いの端に触れようとしてくれていることは何となく伝わる。そしていつもならば煩わしいはずの〝干渉〟が、なぜか少しも煩わしくないあたしの感覚は完全に麻痺している。


「何故なのかと訊いても、雪姫さんは苦しくないですか?」

「…苦しくは、ない。」

「答えてもらえますか?」

「…時間、ちょうだい。」

「はい。」


多分、臆病なだけなのだろう。
本当の自分を出した時に〝違う〟と言われることが。
今は名前もはっきりと思いだせないような男の子にそう言われたことが、どこかにしこりのように残っている。


近くでも遠くでもない、手を伸ばせば触れられそうな距離に洸はいる。
そよそよと優しい風が吹いた。…どうしよう、なんだか眠い。

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