お姫様の作り方
【泰雅side】


目を開けたのは、自分の左側に負荷を感じたからだった。
よく見ずとも分かる。彼女の身体が俺の方に傾いでいた。


彼女の寝顔なんて初めて見る。…というか、彼女は宣言通り、俺の寝顔を見てから眠ったのか。できれば見ないうちに彼女も眠りに落ちていてほしいものだ。


ふと、彼女の手が目に入った。白くて、小さな手。俺と比べたらその小ささが余計に際立つ。
床に置かれたその手にそっと自分の手を重ねたのは、…彼女が眠っていたからこそできたことだ。


「冷た…!…ってそっか、そういやこいつ、寒いの苦手だったよな。」


にしても冷た過ぎる。…それに引き換え、俺の手は熱過ぎる。昔から体温が高かった。子ども体温なんて呼ばれるくらいだ。


『冷たかったから温める意味で握った』と言えば、それは理由になってくれるだろうか。
そんなことを思いながら、俺は彼女の手を握った。すぐに起きてしまわないように、力を加減しながら。


握ると、その冷たさだけではなく、その柔らかさまでをも知る。
頭を撫でていた手は、こんなにも柔らかくて優しいものだったのかと。


少しずつ俺の熱が奪われていくのを感じる。でも、それで彼女の手が温かくなるのならばそれでいい。


「…つーか直球勝負しか…きかねぇよな、こいつには。」


眠る前の彼女とのやり取りを思い出すと、苦笑しか出てこない。あんなに言ったのにそれでも俺の真意に気付かないなんて相当だ。
…でも、たとえ俺の勘違いだとしても、勘違いで終わらせたくないのも事実だ。だから、言うしかないんだ。真っすぐに、直球勝負で。


「…好き、だよ、ま、…真鈴。」


名前を呼ぶのは2度目。
人に好きだと告げるのは生まれて初めてだ。


…次はなんとか、彼女が起きている時に言えますように。


そんな願いを込めて、俺は彼女の手を少しだけ強く握った。


*fin*

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