お姫様の作り方
「な…お前…!」


完全に唇を奪われた形になった俺は、間抜けな声しか出ない。


「初めてちゅーした。」

「…なんでお前からするんだよ。」

「したかったから。」

「あのなぁ…眠り姫はキス待ってるキャラだろ…。」

「じゃあ…待つ。」


そう言って起こした身体をゆっくりと倒し、仰向けになって瞳を閉じる。
…これはつまり、俺からどうぞってことだよな?


初めてってわけじゃない。それなのにガラにもなく緊張するのは相手が美森だからなのだろう。(この際、先を美森に越されたことは置いておく)


左肘から上を美森の顔の横に置いてそこに体重をかけて身をぐっと寄せる。
ギシと鳴るスプリングが別の欲望をかき立てるが、そこがぐっと我慢だ。


そっと、本当にそっと唇を重ねる。
初めての時よりも何倍も緊張するのは、こうして見る美森の寝顔が物語の眠り姫よりもずっと綺麗だからだとも言える。


唇を離すと、閉じていたはずの美森の瞳がゆっくりと開いた。
―――まるで、物語のように。


「…王子様のキスでお姫様は目覚めるんだよね?」

「再現?」

「それもあるけど、樹の顔、ちょっと見たかった。」


眠いからこそたどたどしい物言い。それなのに小さく笑ってそんなことを言うものだから…。
俺だって我慢の限界が来そうだ。


「ん…。」


美森の唇を再び塞いでしまったのはもはや不可抗力だ。
美森は何の抵抗もしない。唇が俺を受け入れる。

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