自己チューなアラサー転勤族主婦の妊娠日記

一日目

 5月27日(月)


 朝6時。起床時間。

 看護師さんが「おはようございます」と部屋の電気を付けにくる。



 長い夜がやっと明けた。


 結局、交互に泣き続ける赤ちゃんのせいで一睡もできなかった。


 最悪の目覚め。お尻が痛い。

 とりあえず、部屋備え付けの洗面所で顔を洗おうと、スリッパを履いて立ち上がる。


「!!」


 足がむくんでいる。正座でしびれたみたいな痛みがあった。


 トイレは……、怖くていけない。




 午前7時半。朝食。

 ご飯と、お味噌汁、薄い味付けの野菜炒め等の病院食が運ばれる。

 薄味だけど、結構美味しい。



 でも……



 トイレで用を足すのが怖いので、あまり食べれなかった。



 朝食後、助産師さん(ずっと看護師さんだと思っていた人たちは、皆助産師さんだった)が検診にやってくる。


 隣のベッドでの対話が聞こえてくる。

「今日から1週間研修生が実習にくるんだけど、~さんに、1人付いても大丈夫かな」「いいですよ~」



 は??

 研修生?

 何それ、聞いてない!!

 
 嫌に決まってるじゃん!




 向かいのベッドでも、検診後に同様の質問をしている。

「~さんには、男の子と女の子の2人付いてもらいたいんだけど、大丈夫?」
「全然大丈夫ですよ~」


 どうしてみんな、そんなにあっさりOKするの?

 しかも、男って……



 どうしよう。




 そして、私の番。

「子宮の状態を見ますね」とおへそのあたりを触診。


「もう4センチくらい縮んでるね。すごい! 収縮が早いよ。いい感じ」

 子宮収縮が早いと、産後の回復も早いと教わる。



「おっぱいの状態も見ますね。ちょっと我慢してね」

「!!」

 乳首をギュウとつねられる。痛い!!



 すると。



 なんか、膿のような、黄色い汁が出てきた。


「一日目で、こんなに出てる。おっぱいの出もいいね」


 これ、母乳か。思っていたよりも濃い黄色だ。


 触診終了。



「それから赤ちゃんね、小さいけどミルクもゴクゴク飲んで、保育器に入らなくてすんだよ」

「そうですか」と、一応母親っぽい安堵顔をしてみせた。



「だからね、午前中に育児の講義を受けて、午後からは母子同室できるよ」

 とびきり笑顔で「よかったね」と言われた。



 正直、何がいいのかわからない。



 体調が悪すぎてそれどころじゃない。

 寝不足で頭も痛い。



 でも、どうせ今日も赤ちゃんの泣き声で眠れないのだ。

 なら、自分も世話した方が長い夜の暇つぶしになるかも。




 そしてとうとう。




「他の人にもお願いしていたけどS(私の苗字)さんにも研修生を1人つけたいんだ。いいかな?」


 みんながOKしているのに、自分だけ断る勇気は……ない。


「女性ですか?」「うん」

「……わかりました」

「良かった。じゃあ、このプリントに署名しておいてくれるかな? 後で学生が挨拶に来るから、その子に渡して」

「分かりました」




 ……なんか、疲れた。


 とりあえず夫に連絡しなくっちゃ。



 午前の面会時間は朝9時から13時まで。

 午後は15時から20時まで。


 夫は面会時間が始まったらすぐに来てくれると言っていた。

『分かった。じゃあ病院の売店で時間潰しているから、講義終わったら電話ちょうだい』「うん、ありがとう」


 赤ちゃんよりも、夫に早く会いたいのになと溜息。


 そのままスマホをいじっていると、



「失礼します」

「失礼します」

「失礼します」

「失礼します」



 早速、研修生がやってきて、各々担当者に挨拶を始める。


 私のところに来たのは、おっとりした素朴な感じの研修生。

「今日から一週間、よろしくお願いします」

 礼儀正しいし、悪い感じではなかったので、少しほっとした。



 緊張気味に体温と血圧を測定する。

 ちょっと応援したくなった。


「この後、講義になります。案内するので、一緒に行きましょう」


 妊婦健診の時に強制的に買わされたテキストを持って講義室(?)に移る。

 助産師さんが来るまで研修生と談笑。




「実は私、31歳で、S(私)さんと歳が近いんです」

「え? そうなんですか?」

「結婚もしないまま給料の安い会社で働いていて、20代後半になったある日、ふと将来が不安になったんです。そこから専門学校に入ったので、私だけ他の研修生よりはるか年上です」

「仕事辞めて専門学校に入るって、すごいですね」


「子供産むことに比べたら全然です。私、子供を産んだことがないんですけど、やっぱり……痛かったですか?」

「産む時よりも陣痛の方が痛かったです」

「私の姉もそう言ってました。どんな感じの痛みですか? まだそんな予定ないですけど、今後の参考に教えてください」

「ええとね~」

 研修生というより友達と会話しているみたいで和む。

 

 色々話し終えて、彼女は「何もできないですけど入院生活を快適に過ごせる手助けになればと思っているので、なんでも言ってください」と言ってくれた。




「待たせてごめんね。じゃあ始めよっか」

 助産師さんが入ってきた。
















 
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