ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】

「あいつは俺と違って泣き虫毛虫で、腕っぷしもからっきし。壊滅的に漢字ができねえ。けど、芯の強さは俺以上だ。ババアや恋人に暴力を振るわれても、近所に白い目で見られても、逃げることはなかった。いつだってあいつは俺の味方でいようとしてくれた」

 ババアと親父の支配から逃れるために、何度もがき苦しんだか。
 時に心折れかけて、もう無理なんじゃないかと、手前のしていることは無駄なんじゃないかと嘆いたこともあった。
 その度に那智が傍にいて、今度は自分が頑張る。兄さまは休んでほしいと笑ってくれた。

 口先だけじゃない。那智は俺の分まで暴力を受け、俺を休ませようとした。
 当時の那智はまだ小学生。俺は中学生だった。もういいと言っても、ババアと恋人に呼ばれる度に、率先して奴らの下へ行った。
 青タンまみれ。頬を腫らしても、那智は大丈夫。我慢できる。兄さまの味方だと笑った。
 そんな那智を知っていおいて、手前より劣っているなんざ、思えるわけねえだろう。

「あいつの不得意なことは俺が補えばいい。そう思う程度だ」
「やっぱり、あんた達の関係は脆くないわよ。少なくとも、あたし達、三姉妹よりかは」

「まさか。慰めてくれているのか? 気色悪い」
「まさか。辛気臭い顔をしていたから、からかっているのよ。あの男の言葉を真に受けているなら、あたしが那智くんをもらっちゃおうかなって」

「向こうの車道に放り投げるぞ」
「それでこそ下川よ。変態ブラコン」

 鼻で笑ってくる福島に、鼻で笑い返し、「気色悪い」と悪態をもう一度ついておく。
 見え見えなんだよ。お前の気遣い。そりゃ確かに親父の言葉に思うことはあれど、あれを真に受けるつもりは毛頭もない。誰かに何を言われようと、俺と那智の関係を壊させるつもりはない。誰にも壊させねえ。俺と那智の関係は……絶対に。

「ねえ。未来の旦那さん」
「誰が旦那だ。車道のどの辺りに放り投げてほしいか言えよ。お望み通りしてやっから」
「入籍の案を出したのはあんたでしょう。あたしは彼氏の振りだけでいいって言ったのに」
「ゲロってもらうには、彼氏じゃ足りねえと思ったんだよ。あーくそ、入籍の嘘なんざつくもんじゃねえな。思い出すだけで吐きそう」

「その割にノリノリだったじゃない。あんた」
「ばか。迫真の演技って言えよ」

 二度と入籍の嘘なんざつくもんか。
 俺には那智がいればそれでいい。
 仮に那智が俺と籍を入れたいっつーなら、俺は喜んで那智と入籍してやらぁ。

 ぶつくさと文句を唱えていると、「これからどうする?」と福島が話題を吹っ掛けてきた。

 親父から得た情報は役に立つようで立たないようなものばかり。
 ある程度、推理した内容の答え合わせをしたくれぇで直接的に情報になり得そうなものはなかった。強いて言えば、金の話か。親父はババアと折半するかたちで六千万を管理していた。親父は金を車のトランクに隠していた。が、ババアはそれをネコババした。
 ただし、ババアは暗証番号とやらを知らないから、六千万を使えずにいる。この場合、金は無事と見ていいんだろうか?

「ババアの居場所を洗うことくれぇしかねえか。もしくは高村に会って、ちと話を聞いてみるか」
「彩加に?」

「電話でお前にも話したが、親父は金が払えなくなった上に、二重契約違反でチェリー・チェリー・ボーイを怒らせている。その額は『1200万』。内、四分の一を『No.254』が払うと名乗り出た。下川治樹のオプション継続を望んでいないから、支払う金額は推定『300万』」

「『No.254』が彩加だってこと?」

「可能性の話だ。難ある男に対して、妄信的に恋しているのはあいつだけだからな。とはいえ、断言はできん。親父のツケを高村彩加が、ポンポンと簡単に支払えられるとは思えねえ。高村はバイトしてるんだっけ?」

「聞いたことないわ。家庭教師をやってみたい、とは言っていたけど」
「バイトをしていると仮定しても、300万を手軽に出せるほど稼いでいるとは思えねえ」

「彩加が関わっていないことを切に願いたいけど、ここ最近の彩加はあんたに夢中なのよね。何を言っても下川くんを自由にするって聞かなくて」

 
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