水面に浮かぶ月
「馬鹿なことを」


光希は拳を作った。

ヨシヒサは吐き捨てるように言う。



「俺はあんたの駒じゃねぇ。いつまでもあんたの思い通りに動くと思うなよ」


光希は作った拳をカウンターテーブルに叩き付けた。



「俺がそれを許すとでも思ってるのか?」

「許すも許さないもねぇんだよ。あんた今、やばいって噂になってるぜ、光希さん」


やばい?

この、俺が?


俺を誰だと思っているんだ。



「いい加減、気付けよ。お山の大将ごっこは、長くは続かねぇ」

「………」

「あんたはもう終わりなんだ」


言い捨てたヨシヒサは、



「わからねぇのか? 岡嶋組の犬なんかに、未来はねぇよ」


通話が途切れたのと同時に、光希は携帯を床に叩き付けた。

ガシャン、と、大きな音を立て、転がる携帯。


光希は怒りのままに、肩で息をする。


俺は『岡嶋組の犬』なんかじゃない。

俺は、この街を手にする男なんだ。



駒ならまた作ればいい。



「全員、ぶっ殺してやる」


俺の――俺と透子の14年を、こんな程度のことで終わらせてたまるものか。

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