水面に浮かぶ月
ヨシヒサは、あからさまに顔を歪める。

抜き打ちテストを告げた教師にブーイングをする子供のようだと、光希は思った。


ヨシヒサは、とにかく何もかもが、顔や態度にすぐ表れる。



「何で俺が探られなきゃならねぇんだよ! あー、腹立つ!」

「落ち着けよ、ヨシヒサ」


光希は努めて冷静にたしなめた。



「お前が『龍神連合』の5代目になった時点で、それは少なからず、仕方がないことだろう? 誰だって、お前の次の動向くらい気にするさ」

「そりゃそうかもしんねぇけど」

「ただ、リョウに目をつけられていることも含めて、これからはもっと慎重に動くようにしろと俺は言ってるんだ。今までのようではダメだよ」

「はいはい。お説教なら聞き飽きたっつーの」


ヨシヒサは、光希を煙たくあしらった。

だが、光希は、それでも諭すように言う。



「今や、お前の一挙手一投足で、物事が右にも左にも傾くんだ。それが『龍神連合』のヘッドなんだから」

「………」

「何より、ふざけたことばかりやってたら、岡嶋組が動くことになるよ。まだ死にたくはないだろう? ヨシヒサ」


ヨシヒサは、口をへの字に曲げた。

どうやら、一応は納得したらしい。



「じゃあ、俺はどうすればいい?」

「俺の指示に従っていればいい。そしたら、ヨシヒサが望んでいる『おもしろいゲーム』ばかりさせてやるよ」


少しの後、ヨシヒサは諦めたように「わかったよ」と言った。



「あんたの言う通りに動くよ、光希さん。俺もさすがに殺されたくはねぇからな」


心配している素振りを見せながらも、その実、確実にヨシヒサを支配下に置く。

光希の人心掌握術は完璧なものだ。


ヨシヒサを飼い慣らせば『龍神連合』まで手に入れたも同然なのだから、光希にとってはこれ以上ないほどに楽なことである。

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