水面に浮かぶ月


美容室から帰宅後、マンションの郵便ポストを探った。

今朝、透子は、試しに携帯の請求書をわざと残しておいたのだが、それがなくなっていた。


やっぱり、だ。


相手は決して姿を現さず、でも透子を監視している。

透子はポストの扉を閉め、足早に自室に戻り、鍵を掛けて部屋に閉じこもった。



カーテンの隙間からマンションの下を確認するも、人っ子ひとりいやしない。



男か女かさえもわからないなんて。

警察に相談したところで、付近の見まわりを強化してくれる程度だろうし、それどころか、下手に誰かに知られて悪い噂が広まれば、客は離れてしまう。


せめて、犯人の目的だけでもわかればいいのだが。


光希には、なるべくなら、知られないようにしたかった。

麗美の一件で頼ったばかりだし、何より光希は今、新しいビジネスに手を出したばかりなので、こんなことで煩わせたくはなかったのだ。



「……待つのも策、か」


やはりここは、焦って動くよりも、相手の出方をうかがった方がいいのかもしれない。


私が平気な顔をしていれば、多少なりとも向こうはイライラするはずだ。

そうしたら、何か新たに仕掛けてくると、透子は考えた。



外は雨が降り始めた。



携帯には、また非通知着信があった。

透子は手首のブレスレットに触れ、「私は大丈夫」と、念じるように呟いた。


この程度のことで動じてどうするんだと、自分で自分に喝を入れる。

< 26 / 186 >

この作品をシェア

pagetop