水面に浮かぶ月


ドアが開けられた瞬間、透子は光希に抱き付いた。

光希も強く透子を抱き締める。


そのままふたりは、もつれるようにベッドに倒れた。


光希は透子を性急に求めた。

透子はそんな光希に身を委ねながら、まぶたの裏に焼き付いた血の色を消し去るように、行為に没頭した。



光希は裸のまま、ビールの缶を傾ける。



「さすがに疲れて眠いな」


この1週間、お互いに、ほとんど寝ていない。

光希も透子も、だから気が抜けた今は、ひどい睡魔に襲われていた。


それでも透子は、体を起こした。



「今日、あれからどうしたの?」


問う透子。

光希は缶ビールを手に数センチしか開かない窓際に行き、煙草を咥えると、



「透子は知らなくていい」


背を向けている光希の表情は見えない。



「でも、本当にもう大丈夫だよ。二度とあいつが、透子の――俺たちの前に現れることはない」


それは、あの男はもう死んだ、という意味なのか、それともただ単に、そんな気が起こらないようなことをした、というだけの意味なのか。

でも、光希ははぐらかそうとするだけで。



「それより、今日はふたりでゆっくりしよう? たまにはこういう時間も大切じゃない」


確かに、気を張り過ぎた毎日は、少し息が詰まる。

透子が「そうね」と返すと、光希はふっと伏し目がちに笑った。


透子の手首のブレスレットは、熱を失い、光希の瞳の色みたいに冷たくなっていた。

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