水面に浮かぶ月
「私たちは、いっそ、双子として生まれてくればよかったのよ」

「双子じゃないから、俺たちはこういうことができるんだ」

「でも私は、血の一滴まで、光希と同じがよかったわ」

「我が儘だな、透子は。俺のすべては透子のものなのに、それでもまだ不満だなんて」


光希は自身を透子の奥底に押し込んだ。

透子の内側は、より深く求めるように、光希を飲み込んでいく。


透子は悲鳴にも似た声を漏らした。


愛しいと、互いに思った。

この瞬間だけは、他の何もいらない、と。



「愛してるよ、透子。死ぬほど愛してる」

「光希……」

「うん」

「好きよ、光希。光希とこうしてる時だけ、私は幸せを感じられるの」


涙の一筋が、透子の頬を伝った。

光希は空気の隙間さえ介在させないほどに、そんな透子を抱き寄せる。


この街で一番空に近い場所で、誰にも知られることなく、ひっそりと、でも確かに、ふたりは互いを求め合った。





2010年7月7日。

ふたりのハタチの誕生日。


続く階段の先にあるのは、栄光の楽園なのか、それとも――。










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