雪の果ての花便り


「さっきから手が止まってるけど、なに見てんの」


柚がパソコンのディスプレイを覗き込んでくる。

私が見ていたのは、金融機関の支店をキャッシュカードに印刷されているコードで検索できるサイトだった。


「ふと、支店がどこなのか知りたくて」

「通帳とキャッシュカードを作った支店? そのくらい覚えておきなさいよ。どうせ近所でしょ」

「やっぱり近所で作るのが一般的だよね」

「そんなことより、あんたが今すべきことは美空さんに本当の気持ちを伝えることだから」

「柚……今本当にすべきことは仕事をすることだよ」


私の視線に倣った柚は、課長が貧乏ゆすりをしてこちらを見ていることに気付き、姿勢を正してパソコンに向き直った。けれど器用な柚は言いたいことを言ってから口を閉じる。


「今週の金曜日こそ、あたしの目の前で美空さんと話をつけてもらうからね」


帰る家がないと言った彪くんのキャッシュカードは、私の家の最寄り駅から4駅離れた場所にある支店で作られていた。





仕事を終えて家に帰ると、彪くんは当たり前のようにキッチンに立っていた。

『おかえり』と『お疲れさま』は、私が思っているよりずっと癒しを含んでいた。


「今日のおねーさんは、いつもより静かだね」


美味しかった夕食を済ませたあと、彪くんが言った。隣で皿を拭いていた私は手を止める。


「考え事をしているんです」

「それって悩みごと? 俺でよければ聞こうか」


唇を結んで拒否すれば、流しの水を止めた彪くんが教えてと視線を強めた。それでも私は答えない。


「いくら払えば聞かせてくれる?」

「……どうしてそうやってすぐ払おうとするんですか」

「居候させてもらう以外の要求だからじゃない?」

「いくらなんでも私の考えていることを知るためにまでお金を払うなんて、おかしいですよ」


背を向け、重ねた皿を食器棚に片付ける。
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