雪の果ての花便り
ほんの僅かでも、距離を縮めることに抵抗があった。そんな私の小さな抵抗は、この状況を見れば無意味に終わっていることがわかる。
彪くんと私は、ただの居候と宿主。それ以上にも、それ以下にもならなくていい。
「……まあ、おねーさんがそう言うなら従うけど」
「従うとかじゃなくて、お互い嫌か嫌じゃないかで生活しましょう」
「ふぅん? わかった。でも、それはそれでつまんないかも」
「――あの、なぜ……?」
肩にあったぬくもりが、太ももに移動した。
膝枕なんてしたのはいつぶりだろう。仰向けに寝転がる彪くんは真下から私を見上げ、形のいい唇に弧を描く。
「やっぱり楽しいかも」
「……」
追加料金をなくした途端、こうくるとは。
見上げてくる彪くんから感じ取れるものには、優しさが含まれていた。安心だとか嬉しさだとか、幸せだとか……そんな、温かく感じられるもの。
どうしてそんなに無防備でいられるんだろう。どうしてそんなに早く警戒心を解くんだろう。
太ももに感じる頭ひとつ分の重さが、あどけない痺れを引き起こす。
「誰にでもするんですか、こういうこと」
「おねーさんにだけだよ」
「甘えたがりなんですか」
「おねーさん限定でね」
こんなことでときめくほど乙女ではないけれど、砂糖菓子のような言葉だと思うくらいにはお姉さんだった。
「……男の人って、そういうこと簡単に言えるものですか」
口元を緩ませ瞼を重くしていた彪くんが、私と視線を交わらせた。温かく柔らかそうな頬に、触れてみたくなる。
「言ってほしい人……好きな人でもいるの?」
「……いますよ」
「へえ。実は俺もいるんだよね」
「知ってます」
「え、うそ。ほんとに? 今初めて言ったはずなのに」
「彪くんが探していると言った人って、好きな子のことじゃないんですか」