ビロードの口づけ 獣の森編


 身支度を調えるためにジンは寝室を出て行く。
 寝室に服は置いてないらしい。
 思い起こせば、ジンは眠る時いつも獣姿に戻っていた。


「今は時期が時期だからな。ミユのように勘違いする奴がいたら面倒だ」


 そう言ってジンは、黒い獣になって部屋を後にした。

 軽く頭を下げてジンを見送ったミユは、ニコニコ笑いながらクルミに服を差し出した。


「お召し物をお持ちしました」


 ジンが用意してくれたのだろう。

 着替えの手伝いを丁重に断って、クルミはひとりで服を身に着ける。
 パーティ用のドレスならともかく、普段着で手伝ってもらう事など何もない。

 着替えを終えたクルミは、部屋の外で待機していたミユに案内されて部屋を移動する。
 食事の支度はすでに調っているらしいが、少しミユに話を聞きたかった。

< 13 / 115 >

この作品をシェア

pagetop