ビロードの口づけ 獣の森編


 部屋の中とはいえ、全裸で走り回っていたのを見られてしまった。
 顔から火を噴きそうなほど恥ずかしい。
 クルミが顔を伏せて更に小さくなっていると、侍女が不思議そうに問いかけた。


「何か問題でも? 奥様の身体はお美しくてうらやましく思います」


 いや、問題はそこじゃないから——。

 ズレた反応に戸惑っていると、背中にふわりと布がかけられた。
 後ろからおもしろそうな声が降ってくる。


「裸を恥ずかしいと思うのは人間だけだ」


 振り返るとしっぽをゆらゆら揺らしながら、半分人型になったジンがクルミを見下ろしていた。

 クルミはジンが背中にかけた寝間着を素早く羽織って立ち上がる。

 恥をかかせた張本人に文句を言ってやろうと振り向いて口を開きかけた時、隣にいた侍女が甘ったるい奇声を発した。

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