ビロードの口づけ 獣の森編


 ジンが声をかけるとクルミは一気にまくし立てた。


「あの、私、お手洗いに行って来ます」


 そして返事も許さず、そのまま部屋を飛び出していく。
 手洗いなら部屋の中にもある。
 見え透いたウソと知りながら、ジンは何も言わずに見送った。
 ザキに何か言いたい事があるのだろう。

 クルミの後を追って行こうとするミユをジンは制した。


「オレも仕事に戻る。おまえはクルミが戻ってくるまでここで待っていろ。すぐに戻るはずだ」

「かしこまりました」


 頭を下げたミユを部屋に残して、ジンは執務室に向かった。

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