続・結婚白書Ⅱ 【手のひらの幸せ】



部屋に入り 課長席に近づくほどに多数の視線が飛んできた

俺はそんなに怖い顔をしいていたのだろうか 

決して愛想の良い方ではないが 恐れられるほどの顔でもないと

思っていたのだが そのときの俺は 殴り込みにでも行くような顔だったと 

後輩があとで教えてくれた



「工藤君 広川さんのことは 本当に申し訳ない 彼女に頼りすぎていた 

忙しいとわかっていたんだが 広川さんの頑張りに甘えていた」



円華の休暇届けと 病状の説明に彼女の所属部署に出向くと

課長が駆け寄るように俺のそばに来た

両手を脇にそろえ こっちが何か言う前に 深々と頭を下げられてしまった


働かせすぎですと 文句のひとつも言おうと思っていたが

先に謝られ 多少の怒りもあったがぶつける先を失い 

出るに出られなくなってしまった

結局 俺が口にした言葉は



「いいえ こちらこそ忙しい時期に体調を崩してしまい申し訳ありません

本人も仕事が気になる様子でしたが 検査の結果がでるまで 

しばらく休養したほうが良いと言うことでした」



妻の不始末を詫びる夫の手本のような答えになってしまった

俺の言葉にホッとしたのか 円華の上司は明らかに安堵の色を浮かべている



「結婚したばかりなのに残業続きで悪いと思ったんだが 

ちょうど忙しい時期と重なってね 

広川さんに負担が掛かってしまった それで体のほうは? 

検査を受けると聞いたが」



課長に説明をしていると 奥から部長も顔を出し また頭を下げられてしまった

こうなると ますます文句を言いにくくなり ご心配をおかけしましたと 

型どおりの言葉しか返せなかった



「これからは無理のないように こちら側も充分気をつけるよ 

だが正直なところ 広川さんがいないと困るというのが本当のところでね……」



部長の言葉に頷く課長の顔を見ても 円華がいなくて困っている様子が

伝わってくる

結婚しても仕事がやりやすいからと 円華は旧姓のままで通していた

広川円華という名は 確固たる地位を築いてきたようだ


こりゃぁ俺も頑張らないといけないな

うかうかしてると 工藤じゃなくて 

”広川さんのダンナ” なんて言われそうだ

そんなことも思ったが 女房が褒められるのは満更でもなかった



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