僕は奏者を愛してしまいました。

秀人は、リフェナウィンドアンサンブルのトランペット奏者。
年齢が近いこともあって誠也とは格段に仲が良く、練習後に一緒に夕食を食べに行ったりもしていた。


「……むしろ、謝るべきなのは僕の方かもしれないな」

「え?」

「誠也のトランペットを引き取ってもらうためだけに、わざわざ市街から呼び寄せてしまったからね」

「そんな、お気になさらず」


秀人はテーブルの下に頭ごと潜ると、よっこいしょ、と爺臭い声と共に黒いケースを持ち上げ、コーヒーカップをどけて横に置いた。

肩掛けのストラップがついた、まだ新しいトランペットのケース。
メーカー名の入った小さな金属板が、側面についている。


「シルバーメッキ、ゴールドブラスの一枚取りベルだったかな。ちょうど四ヵ月前に買ったものだよ」

「詳しいですね」

「買いに行くって時に、誠也に『一緒に来て欲しい』って言われてついて行ったからね」


海音に見えるように向きを変えてから秀人は、ぱちん、と蓋を留める金具を外す。
黒いケースの中には、一点の曇りもなく輝く銀色のトランペットが、ただ静かに横たわっていた。


「……誠也の、トランペット」


ほぅ、と小さな溜め息をつく。
触れようと手を伸ばしてから、何かとても神聖な何かのように感じて、海音は手を引っ込めた。
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