† of Human~人の怪異
突きつけられている『事実』のなにも理解したくない教師が、なにかにすがり付こうとして、ひたすら落ち着いて声を出す。

「お、おい……高野と青井、吉岡はどうした?」

教師が騒がなければ、生徒も騒がない。

騒いだ瞬間に、なにかが崩落する気がして、和幸も黙っていた。

いや、正確には、突きつけられた『事実』を理解しないですむために、思考が停止していた。

「く、ははっ」

と、立ち上がったままの桜庭が、笑った。

そしてだれもが、いまさら気付く。

彼の右の袖は、内側から破裂したように、破れていた。

そして、

「すみません先生。僕が、食べちゃいました」

今度はその左腕が大蛇に変じた瞬間に、『事実』なようやくのようやく、認知された。

ひょっとしたら、誰しもがずっと我慢していたのかもしれない。

だれかはわからない、あらん限りの悲鳴が上がったことが、教室の壁や机だけではない、『日常』の崩落だった。
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