君のいる世界




いない…?


教室には山下さんの姿はなく、代わりにひとつの空席を見つけ授業に出てないんだと悟った。




「た、谷本さん?何か御座いましたか?」



授業をしていた学年主任が恐る恐る聞いてくる。


無理矢理作った笑顔は変に引きつっていた。


この先生はいつもそう。


私と話すときは絶対に敬語だし、声が上擦ってるし、胸の前で両手を合わせ摩っている。


落ち着かないのか癖なのかわからないけど、今も両手を摩るカサカサとした音が耳に付く。




「山下さんを探しているんですが何処にいるかご存知ですか?」



「えっ…や、山下さんは…えっと…」



今まで多くても二言ぐらいしか話した事のない私から質問が来るなんて思いもしなかったのか慌てふためく先生。


そんな先生を他所に教室の中から女子生徒のか細い声が聞こえた。



「山下さんなら授業前に先輩方に呼び出されて何処かへ行きました」



そう教えてくれたのは、窓側の一番前の席で俯き加減に立つ女子生徒。


彼女は長くて真っ黒な髪をひとつ纏めの三つ編みに結いて右肩に流し、黒縁メガネを掛けている。


いかにも優等生って感じ。



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