君のいる世界
「どうぞ」
「失礼します」
ゆっくりと扉を開けて中に入って来た康君は、いつもと変わりなくビシッとスーツを着こなしている。
帰りの車の中も、そして今も、常に平常心で今朝のことなんて何とも思ってない様子だった。
康君は扉の前に姿勢良く立ち、私を見据えた。
「遅くなって申し訳御座いません。お話とは何でしょうか?」
「うん…とりあえず座って?」
私は椅子を引いて康君に座るように促した。
「…いえ、大丈夫です」
二人の間に沈黙が走る。
康君は一瞬眉間に皺を寄せたものの、すぐにいつもの澄んだ表情に戻った。
私の緊張が部屋に充満して、感が鋭い康君は普通じゃない私の様子に気付いたんだと思う。
それになんとなく、今朝の車内での事があってから康君と目を合わせられない。
康君は何も気にしてないようだけど…
私は軽く深呼吸をして口を開いた。
「康君…あのね。明日から私、電車通学しようと思うの。だから登下校の送り迎えは今後しなくていいから」