君のいる世界




「私を産んでくれて…っ、ありがとう…っ……さようなら」



私はエプロンをお母さんの手に押し付けて、二人の顔を見ずに店から飛び出した。


後ろからお母さんが名前を呼んでるのが聞こえる。




振り返っちゃ駄目…


ここで振り返ったら、決心が鈍ってしまう…




無数の涙が滝のように流れて行く。


野次馬で集まった人達は、私を好奇な目や憐れむ目で見てくるけど、涙を止めることは出来なかった。




祖母が乗って来たベンツに乗り込むと同時に、周りを気にせず声を出して泣いた。


いつの間にか隣りに祖母が乗り、車は静かに発車する。




「あなたもだんだんと谷本の娘としての自覚が出来てきたようね」



そう言って満足そうな笑みを浮かべる祖母が、憎たらしくて仕方が無い。


だけどもう、そんなことどうでもいい…


もう私は、人間の感情を捨てようと決めた。




もう誰も好きにならない。


もう傷付けたくも、傷付きたくもない。




後から祖母の秘書が持ってきてくれた私の鞄の中から携帯を取り出す。


大輝の名前を見るだけで胸が痛い…


私はなるべくいつも通りのメール文を作成して、すぐに携帯の電源を落とした。





明日、私の人生が終わる。


明後日から私は、機械のように感情のない人間になんだ。




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