君のいる世界




「お言葉ですがお祖母様、私は恋をして涙を流す事が馬鹿馬鹿しいとは思いません。寧ろ、そうやって捻くれたようにしか考えられない人は可哀想な人だと思います」



私は祖母を見ずに、ただ遠くを見つめながらはっきりと言った。




恋をしたこと…


大輝を好きになったことを、私は誇りに思う。




「…言いたいことはそれだけですか?それなら、私はこれで」



いつの間にか近くに控えていた祖母の秘書が扉を開けると、祖母は悠然とした態度のまま帰って行った。




パタンッとドアが閉まった瞬間、糸が切れたように私の目から大量の涙が流れ、その場にしゃがみ込む。



「……っ…く……」



もうここが玄関だろうと、涙を止めることは出来ない。




助けて…大輝…


私をこの世界から、連れ去って…






私の嗚咽に気付いた康君が驚いた表情を浮かべながら駆け寄ってきて背中を摩ってくれた。


康君の手のひらは大きくて温かくて、いつもならすぐに安心するのに…




この手は大輝の手じゃない。


もう、大輝に触れることも許されない…






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