† of Ogre~鬼の心理
ほー、と口髭を揺らす店長は、やはりあの日のあの雪男に似ている。

思わず、記憶の断片が海馬の奥で風景になり、口が笑みを形作ってしまう。

あれは、今思い出しても実におもしろい体験で――

かららん♪

とその時、店の玄関ベルが鳴った。

牛の首にでもつけられていそうな、大きな鈴だか小さな鐘だかが、軽快にして厳かに響く。

「いらっしゃいませぃっ」せー」

条件反射的に店長に合わせてゆらりと振り返った俺は、

「――出て行け」

コンマ一秒で、相手には見えにくくても、一瞬だけ髪のうちで営業スマイルじみたものを浮かべたことを、叱った。

「な、なに言ってるんだ、草薙? お客さんに失礼だろっ」

当惑する店長の言葉を、

「出てけ」

「こ、こら草薙っ」

「出てけ!」

「おい!!」

「あーいえいえ、ご店主、構いませんとも」

俺は無視し、来訪したヤツはにこやかに手を振って受け止めた。

俺の、がなり声さえも。

< 190 / 414 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop