† of Ogre~鬼の心理
懐からそれを掴み抜いて、私はひときわ大きく跳躍した。

足場にした信号機が、いっそ軽快な炸裂音をあげて壊れ、落下した。アスファルトとの衝突によって響いた、がしゃんというガラスや鉄板の割れ砕ける音に次いで、車の急ブレーキが聞こえる。

もちろん、振り返らないから、聞こえただけだ。事故に遭ったか、あるいは遭いかけただろうに、ドライバーはなにも言ってこない。恐らく仁の隠蔽工作が働いているのだろう。

いったいどのような効果かは知らないが、気にしない。気にかけられない。

私は傍若無人で意気焦燥な来訪者として、そこに立った。

それは南区通り、ひじり公園の交差点でのこと。

私が踏みつけたのは、ひじり公園を前にした、対岸の信号機。

そして着地した信号機のすぐ脇に、

―― 久しぶり、って言うべきなんだよね。真輝からしたら ――

彼は――藤岡悟は、いた。

いつかと変わらぬ、笑顔で。いつかと変わらぬ、滑稽な表情で。

けれどいつかと変わった、半透明の姿で。
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