ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

「枝里ちゃん、お待たせ」

普段は絶対に出さないような声で、呼びかける。
マスターと話をしていた枝里が、こちらを振り返らずに話しだした。

「あれ~、どっかから大幅に遅刻してきた女の声が聞こえる」

「枝里、本当にごめんっ」

「マスター、この店、お化けがいるんじゃない? 悪い事したのか、謝ってるみたいだけど」

マスターが、肩を震わせて笑い出した。

「はははっ。枝里ちゃん、もう許してあげたら?」

「そう? マスターがそう言うなら、許してあげようかなぁ」

枝里が本気で怒っているわけじゃないのは分かっている。けれど、どんな理由があるとしたって、遅れてきた私が悪い。
マスターに両手を合わせお礼をすると、もう一度謝ってから、枝里の隣に腰をおろした。

「待ちくたびれたから、先に始めてるよ」

左手に持っている“マリリン・モンロー”を軽く上げた。彼女が一番好きな、ウオッカ・ベースのカクテルだ。プロポーションが抜群の枝里に、それはよく似あ
っていた。

「どうぞ、どうぞ。今日は好きなだけ飲んじゃって下さい」

そう。今日は枝里の誕生日。
今日のことは、もう何日も前にマスターにお任せで頼んであった。
カウンターには、お祝いの席に似合う、美味しそうで盛りつけ方も凝った洒落た料理が、綺麗に並べられている。





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