ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

もう少しで奥さんに飛びつきそうになる直前で、お兄さんに阻止されてしまった。

「母さん、百合に抱きつくのは止めて下さい。お腹の子に障ります」

肘掛けに腰掛けていた奥さんを守るように抱きしめると、そっと自分の隣に座らせる。そして今度は、自ら奥さんのお腹を撫でた。

「これからは百合には、無理なことをさせないようにお願いします。何かあれば、私がやりますから」

もしかしたらお兄さんも、根っからの悪人ではないみたいだ。じゃないと、こんな穏やかな顔はしないだろう。
普段から、この顔でいればいいのに……。
つい可笑しくてクスっと笑ってしまい、ギロっと睨まれてしまった。
何か私、嫌われてる?
でも奥さんがいるから、大丈夫かな。

お母さんと奥さんが嬉しそうに話しをしている。遼さんと私も、自然と笑みが溢れた。

「親父、店のこともあるから、そろそろ帰るわ。また梓と一緒に顔出すよ」

「ああ、そうしてくれ。いつでも遠慮なく来てくれ。ここはお前の育った家だからな」

その言葉に、胸が熱くなる。
遼さんも同じだったのか、言葉が出ないようだった。

大企業という権勢に巻き込まれて歪んでしまった親子兄弟の関係が、ここからまたゆっくりと元に戻っていく。
遼さん、それにお父さんやお兄さんの顔を見ていれば、元の家族に戻るのもそんなに時間は掛からないだろう。
それに、お母さんと奥さんがいれば百人力だ。
ここで一緒に暮らすことはないだろうが、私も早くこの一員になれるよう努力しよう……。心からそう思った。

遼さんの腕をギュっと掴む。
「ん?」と振り向いた笑顔は、今まで見た中で一番輝いていた。
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