雨、ときどきセンセイ。

「センセイってハッキリさせたい性格だけど、きっと優しいから。傷つけないように…傷つかないように、距離を取ってる」


それは最近のプリントの会話から私が勝手に憶測していたこと。

面倒でいやなら私の言うことなんてとことん無視すればいい。
他の女子にしたって、もっともっと冷たくあしらうことも出来るはず。

それをしないで、自分から遠ざかるよりは、相手が去っていくことを待っているような。
そんなセンセイの行動は、正直不可解で。


「…どうして完全に突き放そうとしないの…?」


器用に仕事と私生活を割り切っているかと思ったけど。

だったら情なんか挟まないで、もっと…私みたいな面倒な生徒、突っぱねてる筈なんだ。


今日返された数学のプリント。

“センセイは雨の日は好きですか?”

その質問にはこう返ってきた。

“好きでも嫌いでもありません”


その曖昧な答えに、変な勘違いを重ねてしまう。


じゃあ、私もーーーそういうポジション?
好きじゃない。
でも、嫌いでもない。

まだセンセイに近付ける可能性はある…?


キシッと古い音を立てたのはセンセイが座っていた伴奏者の椅子。

そこを立ったセンセイは決して音を立てずに、撫でるようにして鍵盤に触れた。
その指先の動きに目を奪われた時、センセイが音(こえ)を発した。


「…『なんで』…ね」


ピアノに向かう、センセイ。
真っ黒かと思ってた髪は、夕陽に当たると物凄く透明感があって綺麗。少し垂れ下がる前髪の隙間から覗く伏せられた睫毛。
首元から視線を下げると、妙に色っぽい感じがする緩めたネクタイ。

『ピアノは弾かない』と言っていたセンセイだけど、ひどくピアノが似合う。


「俺を見てるようだから…か」



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