雨、ときどきセンセイ。
センセイの手の中、心の中


「思ったより、元気じゃん」


昼休みの終わりに水越に言われた。
私は少し考えてから答える。


「……まぁ、ね。丸一日休めばもう元気だよ」


きっと風邪だけじゃなくて、この間の件のことも踏まえて水越は言ってる。

でも、まさか昨日センセイが家にきて、“何もない”って言ったことなんて言えるはずなくて。

かといって、水越の前で、落ち込んだ暗い私を演じることも出来るほど器用じゃないし。

意外に鋭い水越は、もしかしたら何か気付いてたりするのかな…。


「へぇ……」
「……なによ」


その心を読み取るような視線をするの、やめて欲しい。
その目に負けないように、私も精一杯見つめ返すけど、水越はすぐに意外な顔をしてみせた。


「ま、元気ならよかった」


くしゃっと目を細めた笑顔。
それは物凄く眩しい顔で、センセイなら絶対にしない笑顔。

太陽のように、力強く、元気にさせてくれるような。

あまりに眩しくて、結局私は目を逸らした。


「あ……昨日、わざわざメールもありがとね」
「おう。ずいぶん寝てたんだな。羨ましかったぜ」


……本当は、起きてたけど。
センセイと会ってて、センセイと話をしてて、センセイのことを考えててメールに気付かなかっただけで…。

ズキッと私の中で罪悪感を感じた胸が軋む。


「……ついでに暇な日も、メールくれればいいのによ」
「え?」
「オレが忘れてると思ってた? つか、吉井が忘れてたんじゃねーの?」
「あー……」


忘れてた。すっかり。
水越に前、『息抜きに付き合って欲しい』と言われてメールする約束してたんだっけ。


視線を宙に泳がせて言葉を探す。


この場をどう乗り切ったらいいんだろう。




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