ベッドタイムストーリー
17歳・夏・魔法のメイク

高校二年の時、香坂琴美は美術部の夏の合宿に参加する羽目になった…



…部員でもなかったのに。


「お願い、琴美、女子、私一人になっちゃうの。夜の学校であいつらと一緒なんて絶対やだ。怖いよ。
私、部長だから行かないわけにいかないし。
一生のお願いだから、一瞬だけ美術部に入って私と一緒に合宿に参加して!」



放課後の廊下で、中学からの友達、麻衣に両手で右手を握られて、懇願された。


「…じゃ、夏だけね。」

琴美は仕方なく首を縦に振った。


同じ中学出身の麻衣は、昔から絵を描くの好きで、中学の時から美術部に所属していた。
時々は賞を取ったりしていたらしい。

あまり詳しく知らないのは、当時は友達の友達程度の仲であまり親しくなかったからだ。

偶然、同じ高校に進み、二年で同じクラスになってから、やっと少し仲良くなった。


麻衣は、真面目な優等生だ。
成績も良くて美大に行きたい、と希望する進路もはっきりしている。

パン屋でのバイト料を計算しつつ、大好きな漫画を読み、雑種犬のゴウと遊んで日々なんとなく過ごしているお気楽琴美とは全然違うタイプだ。

でも、会話を交わすようになると、好きな漫画が似ているという共通点があることが分かった。


美術の授業は嫌いじゃなかった。

座って適当に課題をこなしていればいい。
難解な方程式やわけのわからない古文よりずっといい。


麻衣が部長を務める美術部は、学校でもかなり影の薄かった。


三年生部員は既におらず、幽霊部員ばかりで、実質活動しているのは麻衣を含めて数名しかいなかった。

男子は変わり者ばかりで、まともに話せる子はいない、と麻衣は言う。


彼らは協調性ゼロのくせして、夏の合宿に参加するという。



夏休み直前、麻衣は同じ女子部員に裏切られてしまった。


彼女達三人は、もっともらしい理由をつけて、合宿をキャンセルした。
いっせいに。

三人の間で密談があったのは明らかだ。


麻衣は落ち込みながらも、ぼけっとしてて、お人好しで暇な琴美に目を付けた。




「夜は調理実習室でカレー作るんだよ。
皆で協力分担するの。」

琴美が参加することで麻衣は元気を取り戻し、楽しそうに言った。


合宿に参加するのは、麻衣と琴美の他に、二年の男子が二名、一年男子が三名の計七名。
それに引率の顧問教師が同行する。


メインイベントは、二日目の午前中、三十分かけて歩いて行く、大きな公園での写生大会だという。

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