ふたり輝くとき
けれど、ユベールの望む瞬間はなかなか訪れない。

(なんで……)

どうしてサラは泣かない?こんなに追い詰めているというのに。そしてサラが1つ大きく呼吸をしてから口を開いた。

「私が貴方の元へ嫁いだのは、お父様の意思です。何も知らなかった私も悪いです。つらいのは受け入れます。でも、私にも意思はあります!愛してくれなくても構いませんから、放っておいてく――っ」

早口で捲し立てるサラの唇を塞ぐ。

「うるさいな……黙ってよ」

愛してくれなくても構わない、放っておいて欲しい。

なぜ?サラはユベールを楽しませるための存在なのだから、そんな選択肢は彼女にない。

「ゃっ――」

身を捩ってユベールの腕から抜け出そうとするサラの身体をグッと押さえつけて口付けを続ける。

深く、舌を絡めて何度も何度も唇を押し付けた。唇の端に吸い付くようにキスを落としたとき……サラの、味が変わって。

そっと唇を離すと、サラはギュッと目を閉じていた。そのせいで、瞳に溜まっていた涙が頬を伝っているのだ。

ドクン――と。

ユベールの心臓が音を立てて全身に鳥肌が立つ。
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