背中の男
彼がこちらを向いた。

わたしの手は顔に寄せたままだ。

おもむろに彼の左手がわたしの髪に触れる。

おろした髪で隠されていた耳をあらわにされる。

ひんやりとした空気感じた気がした。

彼の顔がゆっくり近付いてくる。



…ちゅ…っ…



耳にキスされた。

それどころか形をなぞるように舐められる。

ぞくりと背中に鳥肌が立つ。

「…感じるの…?」

普段でも低く通る声が、
囁くように一層トーンを下げてこぼれた。

わざとじゃないのか。

一瞬肩を震わせ自分でもわかる程に紅潮した顔を背ける。

行き場をなくしていたわたしの手を握られた。

ほんの少し視線を戻すと今度は唇が重なった。

様子をうかがっているのか、
軽く吸われてそっと離れる。

ここまできたら今度はわたしから。

彼の首に腕を絡ませ口づける。

深く濃厚に。

舌で歯列をなぞり、
彼の舌と追いかけっこ。

お互いの唾液を交換し合い、
息をするのも惜しい程に。

満足はしていないけれどそろそろ解放しよう。

キスの拘束を解くと熱い瞳がわたしを捕らえた。



―――罠を仕掛けたのはどちらが先か―――



< 3 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop