結婚白書Ⅲ 【風花】


「見て この二人 良く似てる 目なんて二人とも衛さんにそっくり」



布団を並べて寝かされた二人の子どもの寝顔は 朋代が言うとおり良く似ていた



「彼女……」


「賢吾君のお母さん?」


「うん 元気そうだった 開講する教室も増えて 春にはまた本を出すそうだ」


「そう……」



子供達に顔を向けたまま短い返事をしただけだった

朋代も私と同じように 賢吾の母に罪悪感を背負っているはずだ

決して口にはしないが 心の奥で抱える諸々を自分なりに折り合いをつけながら 

私との結婚に踏み切ったのだろう

穏やかな顔で寝顔を見ている朋代を 後ろからゆっくり抱きしめた

”どうしたの” と不思議そうな目が私を見たが 黙って体を預けてきた



「やっと一区切りついたな 朋代も心配だっただろう 

僕と結婚したばかりに しなくていい苦労をさせたね」


「うぅん そんなことない 私は好きな人と結婚して子どもも生まれて……

苦労なんてそんなこと」


「ありがとう」


「ふふっ どうしちゃったの お礼を言われるようなこと 私してないわよ」


「明日 賢吾と二人で出かけてくるよ」


「そうね そうしてあげて」



朋代の快い返事に うん と答えながら彼女を抱きしめる手に力を入れた。





3日間一緒にすごし 赴任先に帰る日が来た

かねてから考えていたことを叶えようと 私は子供達にカメラを向け 

二人が笑った瞬間を何枚かカメラに収めた

次に会うときは 二人が手を繋いだ姿をファインダーに収めることが

できるだろう

画面で写り具合を確認し 片付けようとしたときだった

それまで横で見ていた朋代が 私の手からカメラを取り上げた



「衛さん 2人を抱っこして 3人の写真を撮りましょうよ」



言い出せない私の胸の中を覗いたような言葉に 瞬時に胸が熱くなる

込み上げてくるものを抑えながら 子供達を膝にのせ カメラの小窓を見据えた

新春の暖かな日差しが差し込む部屋で 柔らかい光に包まれた一枚が 

また新たに加わった


賢吾が親の離婚で何を思ったのか どんな気持ちだったのか 

私がそれを知るのは10数年後のこと

大学生になった賢吾と 私たち家族が近くに住むことになろうとは 

そのとき想像すらしないことだった






                 ・・・ 終 ・・・




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